香港在住15年以上、国際結婚で英語、中国語(普通話・広東語)を中途半端に操り(笑)、香港が第二の故郷になっているトニー(@enjoyhklife)です。
以下の記事では、香港デモで要求されている「五大要求」について触れました。
このうちの5つ目の要求は、もともとは香港政府のトップ、林鄭月娥(キャリー・ラムCarrie Lam)行政長官(Chief Executive)の辞任となっていました。
しかし、現在はもっと根本的な要求、すなわち立法会議員と行政長官を普通選挙(universal suffrage)で選出することとなっています。
単に行政長官の辞任ということから、行政長官を選出する選挙制度そのものを変革することに要求が変わったことから、その難易度は格段に上がったといえます。
ここで、改めて香港の行政長官が選ばれるシステムを振り返りつつ、この問題を考えてみたいと思います。
尚、以下の引用はすべて香港の憲法ともいえる法律「香港基本法(英語版)」からとなります。(基本法の日本語訳は香港ポスト参照)
Contents
香港のトップ、行政長官の選出方法
Annex I – 1. The Chief Executive shall be elected by a broadly representative Election Committee in accordance with this Law and appointed by the Central People’s Government.
香港政府のトップである行政長官は、in accordance with this Law、すなわち香港基本法に従って、a broadly representative Election Committee 広範な代表性を持つ指名委員会(選挙委員会)によって選出され、appointed by the Central People’s Government 中央人民政府によって任命される、と規定されています。
2019年10月現在、行政長官を選ぶ選挙委員会は1200人。
議員やさまざまな業界団体・職能団体から選出されています。
行政長官に立候補するには、この選挙委員会メンバーの150人以上から推薦をえなければいけません。
その後、この1200人の選挙委員による投票によって行政長官が選出されます。
香港のトップ、行政長官を推薦・選出する選挙委員の構成
Amendment to Annex I -1. The Election Committee to elect the fourth term Chief Executive in 2012 shall be composed of 1200 members from the following sectors
「2012年の第4期行政長官を選出する選挙委員会は、次のセクターから選出された1200名で構成される。」
さて、この行政長官を推薦し、選出する1200人の選挙委員会ですが、2012年以降、以下の4つのグループから300名ずつ選出されています。
1 | 商工業・金融界 | 300名 |
2 | 専門職分野(医師、弁護士など) | 300名 |
3 | 労働、社会奉仕、宗教など各界 | 300名 |
4 | 立法会議員、区域組織代表、香港地区全国人民代表大会 代表、香港地区政治協商会議代表 |
300名 |
計1200名 |
2016年に行われた選挙委員選出選挙では、上記の1セクターからはほぼすべてが親中派、2セクターは8割が民主派、3セクターでは7割以上が親中派、4セクターではほぼすべてが親中派とほとんどのセクターで親中派が多数を占めました。
全体で見ても7割近くが親中派という結果となっています。
ここから見ても香港の行政長官を選出する選挙委員会自体が親中派が大多数となっている状況です。(参照:Wikipedia 2016 Hong Kong Election Committee Subsector elections)
香港基本法で普通選挙が約束されている?!
さて、上記のように行政長官を推薦・選出する選挙委員会の構成メンバーのほとんどが親中派だとすると、行政長官として推薦され選挙委員から選出されるには、やはり親中派でないと難しい、ということは容易に想像できるかと思います。
そこで今回のデモでは、この状況を打破するために1人1票の普通選挙によって行政長官(立法会議員も)を選出することが要求されているのです。
しかし、現実的に考えて普通選挙の実現可能性はあるのでしょうか。
実は、この普通選挙の実現について香港基本法で触れている箇所があるのです。
Article 45: The method for selecting the Chief Executive shall be specified in the light of the actual situation in the Hong Kong Special Administrative Region and in accordance with the principle of gradual and orderly progress. The ultimate aim is the selection of the Chief Executive by universal suffrage upon nomination by a broadly representative nominating committee in accordance with democratic procedures.
The method for selecting the Chief Executive 行政長官の選出方法は、specified in the light of the actual situation in the Hong Kong Special Administrative Region香港特別行政区の実際の状況と、in accordance with the principle of gradual and orderly progress 順序に従って漸進するという原則に従って規定される。
そして次が重要なのですが、ここで行政長官の選出方法のultimate aim 最終的な目標について触れています。
最終的には、行政長官の選出は、in accordance with democratic procedures 民主的な手続きに従って、nomination by a broadly representative nominating committee 広範な代表性をもつ指名委員会によって指名され、by universal suffrage 普通選挙で選出するのが目標である、と規定されています。
普通選挙実現までの時期的なことは規定してないにしろ、普通選挙を「最終的な目標」とすることを香港の憲法ともいうべき香港基本法が規定していることは見逃せないですよね。
香港デモの方向性と普通選挙実現への道
ここが2014年の雨傘運動の時も、現在の香港デモにおいても大きな焦点となっている点なのです。
現在の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が辞任しても、次に選ばれるのは、結局同じ親中派の行政長官となることは眼に見えているのだから、それでは運動をやっている意味がない。
だったら、香港基本法にも行政長官を選出する方法として普通選挙を最終目標とすると書いてあるのだから、今こそそれを実現すべきだ、というわけです。
もちろん、香港基本法の条文を読んでも、普通選挙で行政長官を選出することはあくまでも「最終的な目標」であって、それを実施することを「保証」しているわけではありません。
また、普通選挙へのロードマップとしても急に普通選挙を実施するわけではなく、「香港の実際の状況を踏まえて」、「順序を追って漸進的に行う」と規定されているので、現在の状況からいきなり普通選挙を実現するというのも、基本法の内容からしてみても現実的ではないといえなくもありません。
しかし、保証はされてないとしても、香港基本法にも最終的な目標としての普通選挙について触れているのですから、何らかの形で普通選挙へのロードマップは示していく必要もあるのかもしれません。
まだまだ先が見えない香港のデモ活動。
これがどのように進展、解決にむかっていくか、これからも注目していく必要がありますね。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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