香港在住15年以上、国際結婚で英語、中国語(普通話・広東語)を中途半端に操り(笑)、香港が第二の故郷になっているトニー(@enjoyhklife)です。
2019年10月下旬の時点でますます混迷の度を深める香港デモ。
香港警察、そしてデモ隊側の行動も過激化していて、双方ともに歩み寄れるような状況ではなく、全く「落としどころ」が見えてきません。
6月の本格的なデモ活動の開始から長期化していることから、香港経済への影響も懸念されています。
ここで改めて、これまでの「2019年香港デモ」の流れを時系列で振り返ってみたいと思います。
(以下は、Wikipediaなどを参照しています)
Contents
2019年香港デモ:そもそも香港デモが始まったきっかけとは?
今回の香港デモが始まった元々の原因は香港政府が立法会に提出した「逃亡犯条例改正案」への反対運動でした。
そして、逃亡犯条例改正案が立法会に提出されるきっかけとなったのが、台湾における香港人殺人事件でした。
2018年2月:潘曉穎殺人事件
2018年2月、1組の香港人の若いカップルが台湾に旅行に行きます。男性19歳、女性20歳の若いカップルでした。
その旅行中、女性は自分が妊娠5カ月であることを男性に打ち明け、おなかにいる子はその彼との間の子ではなく、他の男性との間にできた子であると話したことから、男性と口論に発展。
しかし、口論だけでは収まらず、男性はその場で女性を殺害してしまったのです。
その後、男性は一人で香港に帰国。
香港で、男性は女性から奪っていたキャッシュカードを利用してお金をおろしたことが発覚し、香港で窃盗罪で逮捕されます。
そして拘留中に女性の台湾での殺害を自供したのです。
しかし、香港と台湾との間にはいわゆる「犯罪人引き渡し条約」がないため、香港警察は男性を台湾に引き渡すことができませんでした。
【香港】「逃亡犯条例」改正のきっかけとなった殺人犯・陳同佳が23日、現在服役中のマネーロンダリング罪の刑期を終え出所する。
陳は昨年台湾でガールフレンドを殺害し香港に逃亡。台湾と香港の間に引き渡し協定がないことから殺人罪で起訴できないでいたが、出所後台湾に戻り自首する意向だという。 pic.twitter.com/AptwPgL9lB
— Poker ポーカー Now (@poker_ing) October 18, 2019
また、以下の記事では、2019年香港デモの原因を歴史的な背景も踏まえ、より深く掘り下げて解説しています。
香港がどういう歴史的背景で成立したのか、2014年にも「雨傘運動」があったけど今回は何が違うのか、など興味がある方は是非読んでみてください。
香港政府、逃亡犯条例改正案を議会に提出
当初、この殺人事件と男性の処遇について野党側は、この殺人事件に限って逃亡犯条例を時限的に改正してはどうかと提案します。
しかし、これに対して香港政府のトップ、林鄭(キャリー・ラム)行政長官は、個別の案件ではなく、条例を改正し、この件も含めて全面的に解決するとします。
2019年2月:香港政府は逃亡犯条例改正案を立法会に提出、審議開始
そして2019年2月に、香港政府は「逃亡犯条例改正案」を立法会に提出。
審議は当初から紛糾。
民主派の議員は犯罪人引渡は今回の件のみ個別で扱うべきとするが、香港政府の保安局局長はこれを拒否します。
そして4月3日、立法会において第一回の審議が行われました。
民主派議員は改正案撤回や、この改正案が香港の憲法である香港基本法に違反する疑いのあることを提起しますが、これに関しては明確な返答はなく審議は終了。
2回目の審議を6月12日に行うとしました。
(写真:Wikipedia 5月11日の会議における議員間のもみ合い)
2019年香港デモ:民間人権陣線(民陣)によるデモ行進の開始
2019年2月、香港政府が逃亡犯条例改正案を立法会に提出後、初めてデモが行われたのは3月31日。
現在もデモ行進を主宰している「民間人権陣線(民陣)」は、香港における民主化運動を主導するプラットフォームとなっていて、さまざまな民間団体や政治団体が所属しています。
3月31日のデモも民陣が実施したもので、参加者は主催者発表1万2000人、警察発表で5200人でした。
さらに4月28日には2回目のデモを実施。参加者は主催者発表で13万人、警察発表で2万2800人となりました。
6月9日:103万人の大規模デモ行進
逃亡犯条例改正案が十分に審議されないまま、2回目の立法会審議を6月12日に控えた、6月9日。3回目のデモ行進が行われます。
この3回目のデモも民陣によって主導されましたが、6月9日のデモ行進の参加者は、なんと主催者発表で103万人というかつてない大規模のデモとなりました。(警察発表で24万人)
(写真:Wikipedia 2019年6月9日逃亡犯条例改正案に反対するデモ)
この香港史上最大規模のデモ行進後も、香港政府は6月12日の第2回審議を行う方針を変更しなかったため、6月12日の早朝には自発的に集まった群衆が立法会近くの公園で集会を行いました。
その後、立法会近くの道路を占拠して第2回審議を妨害しようと試みますが、警察による強制鎮圧により負傷者や逮捕者が発生します。
結局、この日の第2回審議は行われず審議は延期され、翌13日・14日も審議は行わないと発表されました。
6月16日:200万人の大規模デモ行進
民陣は、「逃亡犯条例改正案の撤回」と、「6月12日の警察による強制鎮圧で逮捕されたデモ隊の釈放」を求めてデモ行進を実施。
この時、警察を非難する意味を込めてデモ参加者に黒服着用を呼びかけたことから、黒服がデモ隊の象徴となりました。
16日の参加者は主催者発表で200万人、警察発表は33万8000人。香港の人口が750万人であることを考えると、とてつもない規模であったことがわかります。
(写真:Wikipedia 2019年6月16日逃亡犯条例改正案に反対するデモ)
ところで、なぜ、このように、デモ行進の参加者数の主催者発表と警察発表の数が大きく異なるのかについては、以下の記事で詳しく説明されているのでご覧ください。
7月1日には、デモ隊による立法会一時占拠という事件も発生しますが、2日未明には警察隊によって強制排除されます。
香港でデモ隊が立法会を占拠、警察が排除(BBC)
「五大要求」の達成がデモ活動の目的
2019年6月以降、デモ活動のそれまでの2つの目的であった「逃亡犯条例改正案の完全撤回」「林鄭(キャリー・ラム)行政長官の辞任」に次の3つが加わりました。
「香港警察によるデモ参加者への暴力行為を調査する独立した調査委員会の設置」
「民主化デモを暴動とした認定の取消」
「逮捕されたデモ参加者の逮捕取り下げ」
更に「林鄭(キャリー・ラム)行政長官の辞任」は、行政長官の選出方法が変わらなければ民意が反映されない行政長官が選出されてしまう、との考えから現在は「有権者が1人1票を投じる普通選挙の実現」に変わっています。
そして、デモ隊のスローガンが以下のように呼びかけられるようになりました。(日本語訳は私の意訳です)。
「五大訴求 缺一不可(Five demands, not one less)」(五大要求は一つも譲らない)
「光復香港 時代革命(Liberate Hong Kong, the revolution of our times)」(香港に自由を、今こそ革命を)
【重大事件】7月21日:元朗駅におけるデモ隊襲撃事件
デモの勢いがどんどん大きくなり、デモ隊の一部が過激な行動も辞さなくなってきたように見えるそんな時に象徴的な事件が起きます。
それが、7月21日の元朗駅におけるデモ隊襲撃事件です。
これは7月21日午後10時半頃、元朗駅において白シャツを着てマスクをつけた集団が、黒服を着たデモ隊を襲撃した事件です。
その場にたまたま居合わせた駅利用客も被害を受け、計45名が負傷しました。
また、この白シャツ集団は香港のやくざだったと言われています。
また、通報を受け警察が到着するのがかなり遅れたことなど、警察の対応が強く批判されています。
【香港】今日もMTR全線22:00で運行終了するが、元朗駅のみ7月21日の襲撃事件3か月目の座り込みデモが計画されているため午後2時に閉鎖される。
元朗は香港の中でも特に対立が激しい地域の一つで、デモ隊は警察が暴力団と癒着して市民を攻撃させているなどのデマを吹聴している。 pic.twitter.com/ifzFFnhbpJ
— Poker ポーカー Now (@poker_ing) October 20, 2019
8月11日:警察が打ったビーンバッグ弾が女性のデモ参加者の右目に命中
そして、さらに香港デモ活動の象徴的な事件が次々と起こります。
8月11日には、警察がデモ隊に向けて打ったビーンバッグ弾が、女性のデモ参加者の右目に命中し、女性が重傷となってしまいます。
(写真:眾新聞 CitizenNews)
この事件以来、右目を隠すことがデモ隊のシンボルマークとなりました。
8月12~13日:香港国際空港占拠により空港機能が麻痺
デモ隊は、香港での出来事を国際社会に訴えかけようと、香港国際空港のロビーを占拠します。
2日間で合計600便が欠航するという大きな混乱状態となりました。
この間、空港ロビー入口でデモ隊と警察隊の衝突が発生したり、デモ隊を撮影していた中国の環球時報の記者が中国の警察関係者ではないかと疑われ、一時拘束されるという出来事も発生。
(写真:REUTERS)
香港裁判所は、デモ隊など空港での妨害行為を無期限で禁止する命令を発行したため、これ以降は空港までの交通を妨害するデモ活動はあったものの、空港内での混乱はなくなりました。
8月18日:170万人の大規模デモ行進
そして、8月18日にも「民陣」主催のデモ行進が行われました。
この日は雨にもかからわず主催者発表で170万人の参加者があったといわれました。
(写真:日経新聞)
【重大事件】8月31日:太子駅におけるデモ隊襲撃事件
そして再び、その後の香港デモ活動に大きく後を引くことになる事件が発生します。
太子駅でデモ隊が暴れているとの通報を受けた警察隊が、駅の地下鉄車内まで押し入り、デモ参加者や乗客を次々に殴打。
その後に発表された負傷者の数が当初の10人から7人に修正されるなどしたことから、デモ側は「死者が出たのではないか」との疑いを持ち、これ以降、地下鉄を運営するMTRにCCTVカメラの公開を強く要求。
また、7月21日の元朗駅での襲撃事件と、この8月31日の太子駅での襲撃事件を合わせて、それぞれの日付を現す「721 831」がその後のデモ活動を象徴する数字となりました。
そして、この事件をきっかけに、香港地下鉄MTRは香港政府や警察を支持しデモ活動を妨害する会社であるとみられるようになり、デモ隊から「党鉄」と敵視され、その後のデモ活動では地下鉄駅が激しく破壊されることとなってしまったのです。
9月4日:林鄭(キャリー・ラム)行政長官、逃亡犯条例改正案撤回を表明
そして9月4日、林鄭(キャリー・ラム)行政長官は、香港デモが開始された原因であり、五大要求の一つでもある、「逃亡犯条例改正案の完全撤廃」をする意向であると表明します。
(英語版はこちら)
そして、今後は市民との対話にもかかわっていくとも表明します。
しかし、時すでに遅し。
デモ隊は逃亡犯条例改正案の撤廃だけでは納得せず、既に香港デモ活動が「逃亡犯条例改正案撤廃の戦い」から、香港を中国共産党からの圧力から守る「自由と民主の戦い」という様相を帯びてきていたことから、撤回発表後もデモは収まる気配がありませんでした。
9月26日:林鄭(キャリー・ラム)行政長官と市民の対話集会
9月26日には約束通り、林鄭(キャリー・ラム)行政長官と市民との対話集会が行われます。
ここで林鄭(キャリー・ラム)行政長官は、今回の香港デモにより市民の信頼が落ち込んだ責任を認めました。
10月1日:国慶節のデモ活動で状況一変。警察の発砲で男性が重体
10月1日は、中国の建国記念日である「国慶節」。建国70周年ということで、これに合わせて香港でも大規模なデモが予定されていました。
そして、とうとう事件は起きてしまいます。
この日は、これまでになく様々な場所で、大規模かつ破壊的なデモ活動が行われ、警察隊も催涙弾や放水車などを使ってデモ隊の鎮圧を図っていたのですが、デモ隊に囲まれた警官が、ついに実弾をデモ隊に向け発射。
18歳の高校生(男性)であったデモ参加者の左肩あたりに命中し、男性は重傷を負ってしまいます。
(写真:日経新聞)
これがデモ隊の怒りに火に油を注ぐこととなってしまうのです。
10月4日:「覆面禁止法」の発令
そして、香港政府はついに、1922年に制定され1967年のイギリス統治時代に発動されて以来使われていなかった「緊急状況規則条例(緊急条例)」を発動。
これを利用し、10月5日の0時から「覆面禁止法」を適用すると発表したのです。
4日の夜は、多くの商店が早々に閉店してしまいデモ参加者以外は人気もなくなってしまうなど異様な雰囲気と緊張感となりました。
10月15日:米国で「香港人権・民主主義法案」が下院通過
香港を変えるには欧米からの外圧がなければ変わらない、との思いからデモ行進ではアメリカやイギリスなど、欧米各国の国旗が翻るようにもなっていきます。
そして、アメリカでは15日に「香港人権・民主主義法案」が下院を通過。
今後、上院で可決され、トランプ大統領が署名をすれば、発効することになっています。
この法案では、アメリカが毎年、香港で「一国二制度」が守られているかを検証することが求めれれていて、守られないと判断された場合は、現在香港が享受している経済的な優遇も見直されると規定しているため、中国政府や香港政府も激しく反発しています。
今後の動向
以上が、2019年6月から本格的に始まった香港デモの流れでしたが、現在注目されているのは11月24日に行われる「香港区議会議員選挙」です。
これは、日本の地方選挙のようなものですが、香港の立法会選挙とは異なり、一人一票の民主的な方法で議員が選出されるため、多くの民主派活動家も立候補していて動向が注目されています。
この記事も随時、今後の香港情勢の変動にあわせて更新していきます。
現在では、インドネシアや、バルセロナがあるカタルーニャなどでも大規模がデモ活動が繰り広げられていて、まさに2019年は「デモの季節」とでもいえそうな状況となっています。
香港だけではなく、世界的にこのような民衆運動の動向が注目されそうです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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