語学

香港デモで考えさせられるフェイクニュースと情報リテラシー

香港在住15年以上、国際結婚で英語、中国語(普通話・広東語)を中途半端に操り(笑)、香港が第二の故郷になっているトニー(@enjoyhklife)です。

10月7日の記事で香港デモの現状と情報リテラシーについて触れました。

【香港デモ状況:10月7日更新】あふれかえるデモの情報と情報リテラシーの大切さ香港在住15年以上、国際結婚で英語、中国語(普通話・広東語)を中途半端に操り(笑)、香港が第二の故郷になっているトニー(@enjoyhk...

それから1週間後、10月14日の香港英字紙・South China Morning Postに「香港デモとフェイクニュースHong Kong protests and ‘fake news’)」という記事が出ていましたので、内容をご紹介しつつフェイクニュースについて考えてみたいと思います。

今週は、香港の大規模デモを行ってきた民間人権陣線のジミー・シャム(岑子杰)が数名の覆面グループに襲われるという事件が起きました。

上記のように写真も掲載されているこのニュースですが、この事件をめぐっても、デモ隊・デモ支援側と、香港政府・警察・デモ反対側で激しい情報合戦が繰り広げられています。

とにかく、次から次へと新たな「事件」が発生するため、その情報が本当なのかどうか、落ち着いて「ファクトチェック」する余裕もなく、ショッキングな写真や映像とそれを支持する人と、これに反対する人の感情的なコメント合戦が繰り広げられています。

Contents

香港デモで世界に広がるフェイクニュース

香港デモ行動が開始されてから5カ月目に入りました。

元々は「逃亡犯条例改正案に対する反対運動」から始まったデモ活動ですが、今や「香港の自由と民主を求める戦い」という様相を帯びてきました。

それとともに香港政府・警察やそれを支持する側と、デモ隊・デモを支持する側で「文宣」(プロパガンダ)活動が活発に行われるようになり、双方で激しい情報戦が繰り広げられるようになっています。

What is clear is that different camps in the ongoing unrest spread selective images and videos to sway public opinion, and disinformation is not only part of the game but a “psychological warfare” tool wielded by both sides.

(SCMP: Hong Kong protests and ‘fake news’)

「はっきりしているのは、現在進行形の騒乱に対して、異なる陣営が世論を揺さぶるために、選択された写真や映像を流していることであり、偽情報はゲームの一部のみならず、『心理戦』の道具として双方に巧みに使われていることである。」

警察やデモ隊の活動が過激化し、双方の行為が暴力性を帯びてくれば来るほど、自らを正当化して相手を攻撃する情報戦も過激さを増して、本当なんだかウソなんだからわからない情報がさまざまなメディアやSNSを通じてどんどん流れてきています。

しかも流れてくる写真や映像は上にあげたように、かなりショッキングなものが多いため、その一つ一つに大きく心を揺り動かされます。

その写真や映像がとられた背景や、その事件の前後がどうなっているのかということを冷静に考えることができず、その写真や映像とそこにつけられたコメントに大きく影響されてしまうんですね。

しかし、これらの写真や映像の中には、明らかに正しくない情報であったり、全体を切り取った一部の映像を自分たちに都合が良い方向に解釈して掲載しているものも少なくなく、いわゆるフェイクニュースも増えてきています。

フェイクニュースとは

フェイクニュース(Fake News)には確定した定義があるわけではなく、その定義においても議論があるようです。

ただ、辞書(Cambridge Dictionary)では以下のように定義されています。

false stories that appear to be news, spread on the internet or using other media, usually created to influence political views or as a joke

インターネットやそのほかのメディア上で拡散される、⼀⾒ニュースのようなストーリー。政治的な影響を与えることを⽬的とするか、あるいはジョークとして
作られる。

また、フェイクニュースと似たような意味で使われてる言葉として「disinformation(偽情報)」もあり、こちらは以下のように定義されています。

false information spread in order to deceive people

⼈々を欺く⽬的で拡散される誤った情報。

(以上は、総務省の「プラットフォームサービスに関する研究会」での配布資料「諸外国におけるフェイクニュース及び偽情報への対応」を参照)

フェイクニュースに関しての3つの側面については、以下にも書いています。

情報の真偽よりも情報を見る人の心に響くかが大事

“It is really hard to win somebody’s heart with just facts and accurate information,” he said. “You have to appeal to people’s emotions.”

「ただ、事実や正確な情報というだけでは人々の心をつかむことは本当に難しい。人々の心に訴えかけないといけないのです。」

香港大学のジャーナリズム・メディア研究センターの鍜治本正人准教授は上記のように述べています。

現在までのこの報道合戦において、デモ側は現在までに対香港政府や大きな勝利を得ているといえるかと思います。

実際に香港民意研究所(PORI)による行政長官の支持率の推移を見ても、支持率は2019年6月以降下がる一方です。

余談ですが、私が香港で生活していての肌感覚としては、香港のメディアやSNSでは警察側の理不尽な行動や暴力的な取り締まりの報道がクローズアップされ、警察を非難する声が大きいように感じます。

一方で、デモ隊の地下鉄駅の破壊や親中系店舗の破壊などは確かに知ってはいるが、デモ隊の過激な行為をあからさまに非難する声は限られているように思います。

その理由として、デモ隊に反対の声を上げた人が集団で暴行されたりという被害が報道されていることが挙げられます。

それで、デモ隊の過激な破壊行為には反対するものの、それに対して声を上げることで自分が攻撃されるのが怖いから声も上げない、という層も少なからずいるように感じます。

ただ、残念ながら香港政府や警察がやっていることも実際に「わざと嫌われるためにやっているのか?」と思えるようなものもあるため、素直に香港政府や警察を支持することもできない、という状況もあるのが非常にもどかしいところです。

フェイクニュースにおける3つの虚偽(untruth)

それでは、話をフェイクニュースに戻します。

UNESCO(ユネスコ、国際連合教育科学文化機関)では、フェイクニュース問題に対するファクトチェックに関するハンドブックの中で、3つの虚偽(untruth)について以下のように触れています。

①誤情報(Misinformation)

Information that is false but not created with the intention of causing harm.

「害を与える目的で作られたものではない誤った情報」といえるでしょうか。

情報自体は間違っているのですが、ただそれは悪意をもったものではなく、単純に流した情報が正しくなかった、というものですね。

②偽情報(Disinformation)

Information that is false and deliberately created to harm a person, social group, organisation or country.

「人、社会的団体や組織、国に対して害を与えるために意図的に作られた誤った情報」。

一定の個人や団体を攻撃するために、意図的に情報をでっちあげて、その情報を見た人を自分の思う方向に誘導する悪質なものです。

③情報の悪用(Mal-information)

Information that is based on reality, used to inflict harm on a person, social group, organisation or country.

「人や社会的団体や組織、国に対して害を与えるために使われた実に基づいた情報」。

情報自体はでっち上げた間違ったものではない事実に基づいたものなのですが、それを人を築づける目的で使用した場合、のことを言います。

現在の香港における情報戦では、まさにこれらの3つの「untruth」のなかでも特に②偽情報と③情報の悪用をフル動員して、自らを正当化し相手を揺さぶっているような状況だと思います。

情報リテラシーの時代・ファクトチェック

I tell my students that unless you know exactly what happened from the beginning to the end, you cannot make any conclusion.

「私は学生背に対して、物事の最初から最後までをしっかり理解せずに、いかなる結論を出してもいけない、といっています。」

先にあげた香港大学のジャーナリズム・メディア研究センターの鍜治本正人准教授はのべています。

情報の真偽を確かめる作業に「ファクトチェック」がありますが、現在進行形でデモ活動が進行していて、日々新しい事件が起こっている現在の香港デモの状況では、個人レベルですべての事象のファクトチェックをすることは無理です。

ただ、真偽がはっきりしない情報の前には、そこに書かれていることをうのみにするのではなく、反対の意見や情報にも耳を傾け、柔軟性を持って対応していくことだと思います。

5か月目に入っている香港デモもいつかは終わりを迎えることになるでしょう。

しかし、これらのフェイクニュースの広がりの中で、お互いの断絶が決定的なものになることなく、双方がある程度でも納得する形で、今回の騒動が平和的に解決することを心より願ってやみません。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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